デジタル家電の人気や中国の著しい経済発展のおかげで明るさの見え始めた日本経済、日本国内の失業率は今年に入ってから5%を下回り、有効求人倍率は昨年はじめから継続的な改善を見せています。昨年3月に7千円台をつけた日経平均株価も現在1万2千円台に乗りそうな勢いです。また、自動車業界では春闘で満額回答が続出したり、来春の新卒者の採用を増やすと回答した企業が昨年と比べて3割増となっているとの報道もなされました(日刊紙調査)。
このように順調に回復しているかのように見える日本経済ですが、景気回復に実感がないと回答した人が84%と依然高水準であり(日刊紙による世論調査)、消費者の財布の紐はなかなか緩みません。地方経済に目を転ずれば、商店街がシャッター通りと呼ばれるなど、その燭光はまだ届いていないようですし、過去最高の業績をあげる大手企業が出てくる一方で、資金繰りに苦しむ企業も多く存在します。
全国的で本格的な景気回復は、大手金融機関の不良債権処理が一段落し、市中に潤沢な資金が出回り始めるであろう2005年まで待たなければならないのかもしれません。
本格的な景気回復が実現してもすべての企業が等しく潤ってくるわけではありません。企業を取り巻く様々な環境変化に迅速に対応できなければその企業はマーケットから退場を余儀なくされます。生き残りを賭けた経営革新の推進が今強く求められており、この状況は今後とも変わることはありません。
政府の景気回復へのシナリオは非常に簡略化していえば次のとおりとなります。
金融機関の健全化
(自己資本比率充実)
↓
不良債権処理
↓
金融機関の資金貸出の活発化
↓
景気回復
「不良債権処理」が先か、「景気回復」が先かという議論がありますが、ここではとりあげません。現時点の政府は「不良債権処理」が先と考えています。
このシナリオの中の「不良債権処理」が金融機関自身も含めて多くの企業を苦しませているのです。
不良債権処理については稿を改めて取り上げる予定です。
日本政府が企業再生に対してどのような考え方を持っているのか、これは企業再生を考える上で大変参考になります。政府のいいなりになる必要は毛頭ありませんが、政府の指針に従い、政府が準備する支援策等をしたたかに活用して元気を取り戻すこともひとつの選択肢です。本来であれば政府の指針にとらわれず、政府に頼らない強固な経営資源を築いて多くの企業が世界に羽ばたいていってほしいと私は願っております。
政府は平成14年12月に「企業・産業再生に関する基本指針」を発表しました。この指針の中で、2つの問題が指摘され、それに対する基本的な考え方が示されております。以下に要約しておきます。
・過剰債務問題
企業が債務過剰に陥る要因は様々であるが、コアになる事業に関しては十分な競争力がある場合が多く、これを過剰債務の原因となっている不採算部門から切り離すことにより、事業の再生を図ることが可能である。重要なことは「企業」ではなく「事業」、そして過去の実績である「企業規模」や保有する「不動産の価値」ではなく、将来における「事業の収益性」に着目することである。
・過剰供給構造問題
事業の撤退・縮小については多大なコストがかかるため、痛みを伴う経営判断は先送りされやすい。これを解消するには撤退・縮小に伴う負担を軽減し、不採算部門からの撤退、縮小を円滑化していく必要がある。過剰供給構造は個社ベースのリストラ努力だけに委ねても解消しにくいことから、同業他社と共同で事業統合や合併をすることにより、設備廃棄等の効率的な事業縮小・撤退を図る取り組みを促していく必要がある。
私の言葉に直して表現すれば、利益の出るコア事業を切り出してその他の事業の足かせから解き放ち、金融機関はその事業の将来の収益性(キャッシュフロー)を担保に資金を貸出し、企業規模や不動産を担保にする従来の資金貸出しの姿勢は改めよう、コア事業以外の利益の出ない事業については、同じ事業で利益が出ている企業に道を譲るか、もしくは同業他社と一緒になって利益が出るようになってほしい、ということです。
これら2つの問題の指摘は特に目新しいものではありませんが、政府が明確に2つの問題を指摘するということは、問題への対応としての施策も準備されるということです。「企業・産業再生に関する基本指針」の中では、この施策についても言及されております。それによりますと、「過剰債務問題」に対しては「産業再生機構の創設」、「産業活力再生特別措置法の活用」、「早期事業再生ガイドラインの策定」、「その他金融上の支援措置」が施策として掲げられました。「過剰供給構造問題」に対しては「産業活力再生特別措置法の活用」と「その他金融上の支援措置」が掲げられました。
次回はこの中の「早期事業再生ガイドライン」について考えてみます。
以 上