信用格付の基準(判定方法) (印刷用PDF

2004/05/10
  • 「早期事業再生ガイドライン」における指摘
  • メルマガ第2号(配信第1号)でご紹介しました「早期事業再生ガイドライン」の中の『「経営者主体」の取組』においてはキャッシュフローベースの経営が求められておりますが、その中の「早期事業再生関連指標群の活用」では、事業別の収益性に着目するために、次の指標群が取り上げられております。これらの指標群をモニターしていれば、事業の変調を早期に把握でき、過剰債務状態に陥る前の早い段階で事業再生に着手することが可能になります。

    ・キャッシュフローベースの事業収益
    ・キャッシュフローと負債の関係(キャッシュフロー対有利子負債比率など)
    ・キャッシュフローと利払いの関係(インタレスト・カバレッジ・レシオなど)
    ・自己資本と負債の関係(自己資本比率など)


    これらの指標群を活用すると同時に、次の点にも留意する必要性がこのガイドラインでは言及されております。

    ・経営者の資質など、数値では推し量れない定性的な要素
    ・企業規模や業種業態の特性
    ・絶対値よりも傾向を重視


  • 金融機関による「信用格付」基準(判定方法)の一例
  • 金融機関における「信用格付」の基準(判定方法)の一例をご紹介します。金融機関の行う「信用格付」は上記の「早期事業再生ガイドライン」の指摘を踏まえ、指標を「定量的要素」と「定性的要素」に分けて考えております。定量的要素はさらに「収益性」、「安全性」、「返済能力」、「調達余力」の4つに分かれます。

    また、定性的要素についても数値で評価できるような工夫をしております。

    ここでは中小企業向けの採点基準を一緒に付記しておきます。

    参考文献:
    「今、中小企業の経営者がやるべきこと 会社拡大、再生のために」(藤間 繁著)

    なお、現在複数の金融機関に対してそれぞれの「信用格付」基準の提供をお願いしております。お願いしたすべての金融機関からこの資料の提供を受けることが出来るかどうかわかりませんが、比較表が出来る程度の数のデータが集まりましたら、改めてご紹介する予定です。

    1. 定量的要素
    (1) 収益性指標

    ・売上高経常利益率
      =(経常利益)/(当期売上高)×100

         判断基準 配点
         10%以上  10
          5%以上  7
          3%以上  5
          0%以上  3
          0%未満  0

    ・収益フロー(税引き後利益)

         判断基準 配点
        3期連続黒字 20
        2期連続黒字 15
        今期黒字   10
        1期のみ赤字  5
        2期以上赤字  0

    ・売上債権・棚卸資産回転期間
      =(売上債権+棚卸資産)/(売上)×12ヶ月

         判断基準 配点
         2ヶ月未満 10
         3ヶ月未満  7
         4ヶ月未満  5
         6ヶ月未満  3
         6ヶ月以上  0

    ・経営安全率(売上高がどの程度減少しても安全かという割合)
      =(実際売上高-損益分岐点売上)/(実際売上高)×100

         判断基準 配点
         15%以上  10
          7%以上   7
          3%以上   5
          0%以上   3
          0%未満   0

    (2) 安全性指標

    ・自己資本比率
      =(資本の部合計)/(負債・資本合計)×100

         判断基準 配点
         50%以上  20
         30%以上  15
         15%以上  10
         10%以上   5
          0%以上   3
          0%未満   0

    ・固定長期適合比率
      =(固定資産合計)/(固定負債合計+資本の部合計)×100

         判断基準 配点
          50%以内  10
          80%以内  7
         100%以内  5
         120%以内  3
         120%超過  0

    ・流動比率
      =(流動資産合計)/(流動負債合計)×100

         判断基準 配点
         200%以上  10
         160%以上  7
         120%以上  5
         100%以上  3

    (3) 返済能力指標

    ・債務償還年数
      =(短期借入金+長期借入金+社債・転換社債)/
    (営業利益+減価償却費―税金)

         判断基準 配点
          2年以内 20
          7年以内 15
         15年以内 10
         25年以内  5
         25年超   0

    ・インタレスト・カバレッジ・レシオ
      =(営業利益+受取利息・配当金)/(支払利息・割引料)

         判断基準 配点
         10倍超   10
          5倍以上  7
          2倍以上  5
          0倍以上  3
          0倍未満  0

    ・キャッシュフロー額
      =(営業利益-税金+当期減価償却実施額)

         判断基準 配点
         1億円以上 10
        50百万円以上 7
        25百万円以上 5
         0百万円以上 3
         0百万円未満 0

    (4) 調達余力指標

    ・時価ベース資産余力
      =不動産時価(会社+経営者)×70%+流動資産-流動負債-長短借入金

         判断基準 配点
         3億円以上 10
         2億円以上  7
         1億円以上  5
         0億円以上  3
         0億円未満  0

    ・経営者の収入・資産状況

            判断基準       配点
      収入1億円以上、資産10億円以上   10
      収入50百万円以上、資産5億円以上   8
      収入30百万円以上、資産3億円以上   6
      収入10百万円以上、資産1億円以上   4
      収入5百万円以上、資産0.5億円以上  2
      収入5百万円以下、資産0.5億円以下  0


    2. 定性的要素
    (1) 業種動向

         判断基準 配点
          成長期  5
          成熟期  4
          離陸期  3
          衰退期  1
          急減期  0

    (2) 技術力・販売力

         判断基準 配点
          高い   10
          普通   5
          低い   0

    (3) 経営者の人格及び経営能力

         判断基準 配点
          高い   10
          普通   5
          低い   0

    (4) 経営改善計画の運用進捗度

         判断基準        配点
        改善計画の進捗 80%以上  15
        改善計画の進捗 50%以上  10
        改善計画の進捗 50%未満   5
        改善計画がない       0

    (5) 従業員のモラル

         判断基準      配点
       問題なし         10
       やや問題あるが影響なし  5
       経営に影響あり      0


  • 信用格付評価
  • 上記の採点の合計(200点満点)で具体的な信用格付が行われます。

         合計点        信用格付     債務者区分
         160以上        AAA    正常先
         140以上        AA     正常先
         120以上        AA(-)   正常先
         100以上        A     正常先
          80以上        BBB    要注意先
          60以上        BBB(-)   要注意先(要管理先)
          50以上        BB     破綻懸念先
          50未満または延滞あり B     実質破綻先及び破綻先
         延滞解消見込みなし        実質破綻先及び破綻先
         営業停止             実質破綻先及び破綻先

    経営戦略の実施ツールとして「バランスト・スコアカード」が最近注目されておりますが、この中の「財務の視点」で選択すべき財務指標において、ここでご紹介した各指標が参考になるのではないかと思います。「バランスト・スコアカード」に関しては稿を改めてご紹介する予定です。


次回は今回ご紹介しました「信用格付」をより上位に上げるための方策をいくつか考えていきます。


以 上


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