内部統制非有効報告分析 (印刷用PDF報告企業比較一覧PDF

2009/07/19

 3月末決算企業の内部統制報告書が6月下旬からEDINETにアップロードされ始め、ほぼ出そろいました。7月1日時点で2,672社がアップロードし、そのうち56社が自社の内部統制を非有効とした報告をしております。米国の場合、7社に1社が内部統制に重要な欠陥があると報告したのに対して、日本の場合は50社に1社ということですから、かなり少なかったと評価できます。このような結果になったのは、米国の先例があったのでそれを参考に準備ができた、日本の基準の方が緩かった、といった事情が考えられます。

 私はUS-SOX対応から内部統制の構築や評価のご支援を、企業に対してご提供しておりましたので、結果に大変興味がありました。7月2日の日経新聞朝刊に内部統制が有効でないと報告した56社の社名が公表されておりましたので、EDINETからこれらの企業の内部統制報告書をダウンロードして一覧表にまとめ、これに企業規模や上場している証券市場、担当監査法人の情報等を加味して簡単な分析を行なってみました。

  • 1. 非有効の内部統制報告書を提出した企業
  •  内部統制が有効でないと報告した企業の業種は様々であり、特に特定の業種に多いという印象はありません。しかし、企業の上場している証券市場を見ると傾向がわかります。ジャスダック、アンビシャス、セントレックス、ヘラクレスといった新興市場への上場企業が56社中30社と過半数になっております。売上規模で見ますと、200億円以下の企業が31社となりました。規模の小さい企業にとって内部統制報告制度は少々荷が重かったようです。

  • 2. 評価対象とする業務プロセス
  •  「実施基準」では評価対象とする業務プロセスとして、企業の事業目的に大きく関わる勘定科目に至る業務プロセスを、原則としてすべて評価対象とするとしています。実施基準に例示されている「売上」、「売掛金」、「棚卸資産」を事業目的に大きく関わる勘定科目とした企業が34社と大半ですが、この勘定科目に至る業務プロセスを記述した企業はほとんどありません。また、2社は勘定科目を明示せずに評価対象業務プロセスだけを記述しております。

  • 3. 重要な欠陥の内容
  •  報告書のこの部分の記述は、詳しく書かれていないものが少なくなく、不備の具体的内容がわからないものがありましたが、私の判断で「欠陥種別」として分類しております。欠陥種別は「全社レベル(全社)」、「決算・財務報告(決算)」、「業務レベル(業務)」、「IT全般(IT)」、「不正行為(不正)」の5種類としました。不正行為の場合は「不正」ばかりでなく、「全社」、「業務」のそれぞれにも該当するとしました。

     このように分類してカウントすると、「決算」に係る不備が33件で、最も多いという結果になっております。これは財務諸表監査において会計監査人から誤りを指摘されたケースがほとんどであると推測されます。いままで決算・財務報告において監査法人に教えを請うていた企業が少なからずあったようですが、これからは監査法人に頼らず、企業自ら正確に処理できるようでなければなりません。今回の報告で内部統制は有効とした企業の中にも、監査法人から誤りの指摘を受けたが、金額的に重要でなかったので「重要な欠陥」とはならず、内部統制は有効とした企業が少なからずあったのではないでしょうか。

     IT全般統制の不備は直ちには重要な欠陥となるわけではないのですが、これに分類されるものが1件報告されました。システム障害により会計データの一部が失われ、バックアップからの復旧がうまくいかなかったということのようです。IT全般統制はIT業務処理統制(システム統制)の期間有効性を担保するもので財務報告には間接的に影響するという位置づけなのですが、財務報告に直接影響するIT全般統制が、特殊例として存在することを教えてくれました。

     不正行為は11件報告されていますが、役職員による資金の私的流用に混じって、経営者の内部統制軽視と判断できる報告もあります。

     不備が発見された拠点は、規模の大きな企業では子会社、小さな企業では親会社という傾向があるのではないかと考えましたが、明確な傾向は認められませんでした。

  • 4. 是正措置
  •  内部統制の有効性評価で不備が発見されても、期末までに是正措置を実施して再評価し、期末時点での判断で有効とすることができます。これができなかった企業が内部統制非有効と報告しているのですが、その理由で多いのが「知識と経験を持った人材を従事させることができなかった」というものです。

     決算・財務報告プロセスで不備が見つかると、すでに期末日は過ぎておりますので、是正するタイミングを失い、その金額次第で重要な欠陥となってしまうという事情がありますので要注意です。

     報告書提出時点までに是正措置が完了していれば、その旨を報告書に付記できます。そのように報告書に書かれている企業が9社ありました。金融庁のホームページではこれを11社としていますが、ここでは「統制を整備できた」と記述しているだけでは有効としませんでした。「整備及び運用状況の評価を行った結果、有効と判断」と書かれているもののみを「○」としました。

  • 5. 監査法人関連
  •  56社を担当する監査法人についても調べてみました。新日本、トーマツ、あずさの大手監査法人を外部監査人とする企業が33社であるのに対して、中堅・中小監査法人・個人会計士を外部監査人とする企業は23社となっており、中堅以下の監査法人の割合が上場企業全体と比較しますと非常に高くなっております。これは新興市場に上場している中小規模の企業が多いことがその一因と考えられます。内部統制報告書に対する監査法人の意見は「意見不表明」となった1社を除き、「無限定適正意見」となっております。つまり「内部統制が有効でない」と報告したことは適正であるということです。

     特筆すべきは6月の株主総会後に監査法人の交代があった企業が11社あることです。ウィングパートナーズという中小監査法人は、金融庁から1カ月の業務停止処分を受けたために辞任をクライアント企業2社に対して申し出ておりますが、残りの9社は任期満了を理由に交代ということになっております。外部監査人の交代が上場企業全体で毎年どの程度行われるのか統計値を知りませんが、56社中の11社という割合は非常に高いという印象を受けます。先日、情報システムコントロール協会(ISACA)の講演会で証券取引等監視委員会関係者の講演を聞きましたが、講演の中で監査法人の交代のあった企業については監視を強めるという趣旨の発言をするくらい、監査法人の交代は異常事態であることに留意する必要があります。ここでは推測の域を出ませんので、これ以上の考察を控えます。

  • 6. その他
  •  一旦報告した後に、内部統制報告書もしくは監査報告書の訂正をした企業が、7月18日時点で3社存在します。企業、監査法人とも内部統制報告制度にまだ慣れていないことがうかがわれます。比較一覧表の備考欄に記述してありますので、どのような訂正をしたのか興味のある方は、EDINETで該当企業のページを開き、「訂正~報告書」を直接閲覧してみてください。

     内部統制が有効でないと報告した企業の株価が報告の前後でどの程度変化したか、調査したかったのですが、株価の有意な上昇・下降があったかどうかの判断は容易ではありません。市場全体の動き、あるいは属する業界の各企業の株価の動きも参考に評価しなければなりませんので、難しいと判断し分析を見送りました。

     米国の場合、初年度に「有効でない」と報告した企業の株価に有意な上昇・下降は認められなかったそうです。しかし、2年目も継続して「有効でない」という報告した企業の株価は有意な下落が認められたとのことです。


以 上


Copyright©2009 That's it コンサルティング 斎藤 淳 All Rights Reserved.