利益構造の分析と事業再編成 (印刷用PDF

2004/05/24
  • ここ1週間の新聞報道
  • 前号を配信した後の1週間で、企業再生に関する注目すべき新聞報道がありました。

    金融関係のニュースとして注目すべきものはUFJグループのものです。UFJグループは2004年3月期決算の再修正を行い、780億円の黒字の予定であったものが4000億円規模の赤字になるということです。こんなに極端な修正がすでに終了した会計年度に対して行われることに疑問を感じた方も多かったのではないでしょうか。これは大手商社などの大口融資先の不良債権に対する貸倒引当金が不足していることを金融庁に指摘され、これを積み増したことが原因です。この記事では自己資本比率8%をかろうじて確保したことにも触れておりました(8%を下回ると国際業務が困難になります)。大口融資先の貸倒引当金の不足は「引当率」に問題があったくらいではここまでの差は出ないと推測されますので、「信用格付」に問題があったものと考えられます。このメールマガジンの読者であれば、充分ご理解いただけた金融記事であったと思います。
    報道では繰延税金資産についても触れていましたので、簡単にご説明しておきます。UFJグループでは巨額の貸倒引当金を積んだために決算が赤字となってしまいましたが、税法上は債権の一定割合までしか損失として計上できません。この割合を超える部分については所得とみなされ税金を払う必要があります。この払いすぎた税金は、実際に取引先が破綻して現実に損失が出たときに還付されます。そこで税金を払わなかったことにして資産として会計処理するのが繰延税金資産です(税効果会計)。しかし、この税金の還付は翌年度以降の課税所得から控除する形で行われますので、翌年度以降に充分な課税所得が見込まれなければなりません。UFJグループの場合、翌年度以降の収益回復が見込まれると監査法人が判断したので、上限である5年分の算入が認められ、自己資本比率8%を確保できたと思われます。ある地方銀行の場合は翌年度以降の収益回復に疑問が持たれたため、2年分しか繰延税金資産算入が認められず、破綻に追い込まれました。

    カネボウの再建案が発表になりました。この再建案は「財務体質改善」、「新役員人事」、「事業のリストラ策」が骨子となっております。事業のリストラ策としては、業績の良かった化粧品部門は分社して過剰債務から開放し、事業成長戦略を取ります。他の事業が残るカネボウ本体は大規模なリストラを行います。本体のリストラ内容は繊維事業と食品事業を大幅に縮小し、家庭用品と医薬品事業を中心に再生を進めるとのことです。

    三菱自動車工業の再建策も発表になりました。この再建策は前号でもご紹介した「資本増強策」、「リストラ策」、「業績目標」で構成されており、リストラ策では大型車から撤退して多目的スポーツ車や小型車へ経営資源を集中させ、それに伴って海外および国内の工場を一部閉鎖するということです。

    企業再生に当たり、カネボウも三菱自動車工業も事業を絞り込んでいます。もちろん収益性の高い事業に絞り込んでいるのです。


  • 利益構造の分析
  • カネボウの場合は事業別に絞り込みを行いました。三菱自動車工業の場合は製品(車種)別に絞り込みを行いました。つまり、現行の事業を何らかの観点で分類し、それぞれの収益性(キャッシュフロー)を評価したのです。カネボウのように複数の事業を持っている場合は事業別に分類してそれぞれの事業を評価します。三菱自動車工業のように自動車製造という一つの事業を営んで知る場合は製品別に分類してその収益性を評価しています。

    では製品/サービスの観点でも単一で分類しようがない中小企業の場合はどうすべきでしょうか。それでもなんらかの観点で分類してみましょう。たとえば、大口顧客と小口顧客に分類したり、営業地域で分類したりできますね。個人相手の事業でしたら、性別、年齢等で分類することも考えられます。

    事業の分類が出来ましたら、分類別の収支を確認しましょう。このような分析をするには管理会計を実施していることが前提となりますが、中小企業では管理会計を行っていないところは少なくないと思います。その場合、今後は顧問税理士とも相談して管理会計を導入することとし、今までの経理伝票を手がかりに事業分類ごとに費用と収益を可能なかぎり割り振ってみてください。


  • 事業再編成
  • 事業分類ごとに黒字と赤字がはっきりしましたら、赤字事業はそもそも継続する価値があるかどうか考えてください。企業再生については、本来最初に事業の継続価値の存否を判断すべきなのです。また、赤字が一時的なものであるのか、構造的なものであるのかも検討を加えます。

    供給過剰のような構造的な原因による赤字の場合は、事業売却、同業他社との合併、撤退を考慮します。同業者に事業売却や合併を持ちかけるのは、相手に弱みを見せるようで抵抗を感じる経営者は多いと思います。その場合はコンサルタントという役者を雇えばよいのです。地域金融機関に相談するのも一つの手です。
    最近は長期継続する取引関係の中から、借り手企業の経営者の資質や事業の将来性等についての情報を得て、この情報を基に融資を実行する金融機関の経営手法(リレーションシップ・バンキング)の導入が始まっております。この情報を元に地域金融機関が仲介役をしてくれると期待できます。 一時的な赤字の場合は黒字化する方策をひねり出します。利益構造の分析を実施せずに企業全体の黒字化を考えるよりも、的が絞り込まれていますので、考えやすいはずです。景気回復基調にある現在は売上を伸ばすことにより黒字化できる可能性が高まっていますが、基本は経費削減です。

    分類した事業がすべて赤字で、しかも構造的な原因によるものである場合はどうすべきでしょうか。これは残念ですが、市場から退場すべき企業と判断すべきです。市場から退場すべき企業を無理に延命させることは日本の産業構造における新陳代謝を妨げることになります。中小企業庁の調査によりますと、倒産企業経営者のうち再就職している人は半分であり、そのうち再度経営者として復活した人は26%にしか過ぎません。米国では88%が再就職し、そのうち53%が経営者として復活しているそうです。事業に将来性がないと評価したらきっぱりと撤退し、米国のように別の事業を起こしてまた経営者として活躍する人が日本でも増えることを私は願わずにいられません。そのような経営者は貴重な経験を積んでおり、その経験を新しい事業に活かしてほしいからです。また、市場から退場すべき企業で働いていた従業員の方々は辛い思いをすることになりますが、そもそも終身雇用制は崩れてきており、日本の将来を担う産業(事業)分野へ積極的に移動してほしいと私は考えております。

    黒字の事業については現状のままでよいのでしょうか。黒字の事業はある程度の競争力がある事業であると判断できます。経営者の中には競争力の弱い事業にてこ入れをして強くしようと一生懸命になっている方がおりますが、私はこの考え方に賛成できません。競争優位を維持・向上させる方策が戦略ですので、競争力の強い事業に限りある経営資源を集中させて、ますます強くしていくことを考えるべきです。競争力の弱い事業に経営資源を投入している間に競争力の強い事業分野の競合企業が力をつけて、自社の競争力が相対的に低下してしまっては平凡な企業に成り果ててしまいます。米国のベンチャー企業のメッカであるシリコンバレーでは、平凡であること、普通であることが最大のリスクと考えられております。


メールマガジンを開始して以来、私の本来の専門であるIT関連の話題を一つも取り上げておりませんので、次回はこのIT関連のお話をしたいと考えております。


以 上


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