4-4. アイスフィールドパークウェー
7月2日(日)
朝起きるとあいにく昨日の雨が残っている。いや、昨日より雨脚は激しい。とてもアウトドア・アクティビティを楽しむような状況ではない。がっかりしてしまったが、ホテルに閉じこもっているのもつまらないので、車から降りずに見物できるバッファロー・パドックに行ってみることにした。ここは絶滅の危機にひんしているバッファローの保護区である。広い敷地を囲むように観光客の車が通る道が設けられているが、行けども行けどもバッファローの姿は見えない。雨の日はバッファローもどこかで雨宿りしているのだろうか。ついていないときは徹底的についていないなと、ほとんど諦めかけたところで、はるか遠くにバッファローの黒い姿を1頭だけ見つけることができた。後に聞いた話であるが、30回ここにきているがまだ1度もバッファローの姿を見ていない人もいるそうである。帰り際、地面に孔を掘って暮らす愛くるしいリスを見れたのが救いであった。
夕方少しだけ雨が上がった。この合間を見て乗馬をやってみることにした。ホテルで予約をしてもらったら、シャトルバスがみんなを降ろした後、その牧場まで連れて行ってくれることになった。牧場では「事故が起こっても文句を言わない」旨の契約書にまずサインさせられた。この牧場には日本人の観光客が多く訪れるらしく、日本語の契約書が準備されている。3歳の娘と6歳の息子が一人で乗れるか心配であったが、牧場の係員は大丈夫だという。特に下の娘は馬に跨ったとたん泣き出しそうになるほど怖がったが、すぐに馬は歩き始めてしまい、娘も私も覚悟を決めた。私が予約をしたのは1時間ほど山道のトレッキングを楽しむものであった。急な山道に差し掛かった時、私は娘を一人で馬に乗せたことを後悔した。地面には娘の頭の半分ほどもある石がごろごろしており、娘が落馬したら間違いなく頭からこの石の上に叩きつけられると感じたからである。幸いそのような事故は起こらなかったが、人には絶対に薦められない。最初怖がった娘は、一人で馬に1時間も乗ったことを、今では誇らしげにしている。
牧場から呼んだタクシーでダウンタウンまで出て、お土産を物色し、夕食をとることにした。今日はフォンデュコースにしよう。我が家は大のチーズ・フォンデュ・ファンである。料理はチーズフォンデュ、オイルフォンデュ、最後にデザートのチョコレートフォンデュと続く。最後のチョコレートフォンデュは初めて食べたが、溶けたチョコに果物を入れて食べるものであり、見た目ほど濃厚ではない。また、私は食べなかったが、オイルフォンデュではガラガラヘビ、ワニ、カエル、サメの肉等もメニューに載っている。土産話にはもってこいであろう。
ホテルに戻ったら12時近かった。明日こそ天気が回復しますように。
7月3日(月)
朝天気になっていると期待して部屋のカーテンを開けると、またしても恨めしい雨である。しかし、今日はホテルをチェックアウトしなければならないので、快晴なら素晴らしい景色を堪能できるアイスフィールド・パークウェーを、実に残念であるが雨の中ジャスパーに向けて走ることにした。途中で天気が回復することを祈りながら。
コロンビア大氷原に到着しても、相変わらず小雨が降り続いている。でもここの氷河は見逃せない。氷河見物のバスが出発する待合室のある建物は、雨宿りの観光客でごった返していたが、30分待ちのバスの席が予約できた(写真4-15)。あの有名なスノーコーチに直接乗っていくのだと考えていたら、氷河の端まで普通のバスで行き、そこであのコーチに乗り換えるのであった。あの巨大なタイヤは迫力がある。氷河そのものは青い氷でなかなか美しいが、その表面は波打っており、歩きにくい。しかも雨が降っている。我がファミリーは全員レインウェアを着こむことにした(写真4-16)。
コロンビア大氷原を後にしても、雨は止もうとしない。低い雨雲の間からときどきロッキーの山々がのぞくが、旅行書の写真に出てくるような素晴らしい景色を拝めない。何とも恨めしい雨である(いい加減にしろよ!)。
この雨の中を今日1日でジャスパーまで走ってしまうのは残念でならなかったので、ジャスパーよりかなり手前のキャンプ場に入ることにした。
アイスフィールド・パークウェーには結構多くのキャンプ場がある。道路サインを見ただけでも10か所程度はあった(写真4-17、4-18)。しかし、フルフックアップはバンフとジャスパー以外にはなさそうである。ダンプステーションだけはその道路サインを何か所かで見かけた。バンフからジャスパーに向かう途中、私が泊ったのはHONEYMOON LAKEキャンプ場といい、常駐の管理人すらいなかった。このキャンプ場の入り口には「SELF REGISTRATION」というコーナーがあり、ここでタグのついた封筒に必要事項を記入して$10を入れ、タグを切り取って$10入りの封筒をポストに入れる(写真4-19)。各サイトにはその番号が書かれた小さな看板が立っている。この小さな看板にクリップが付いており、タグをこのクリップに留めておく。適当な時期に非常駐の管理人が見回りに来て、各サイトをチェックしていくようである。私はたまたま見回りに来た管理人にこのシステムを聞き、お金を入れた封筒を直接彼に手渡した。
このキャンプ場にはテントでキャンプしている人々も多かった。熊が出てくるので怖くないかと思う。オランダから来ていた若いグループの人達に聞いてみたら、途中で3回熊を見たそうである。この国立公園内に設置されているゴミ箱は蓋がすべてついている。この蓋にはロックが付いており、熊などには開けられないようになっている(写真4-20)。
7月4日(火)
朝6時頃目が覚め、外を見ると青空がのぞいているではないか。快晴とは言えないけれども、アイスフィールド・パークウェーの景色は充分楽しめそうである。ワイフをすぐに起こし、バンフに戻ることを決め、子供たちを後ろのベッドに寝かしたまま直ちに出発した。昨日雨の中を走った道であるが、同じ道とは思えないほどの感動的な景色である。要するに昨日は低い雲が立ち込めていて景色が良く見えなかったのだ。心がウキウキしてくる。この天候ならカナディアン・ロッキーを空から眺めるヘリコプター・ツアーにも参加できるかもしれない。10時過ぎにバンフに戻り、ヘリコプター・ツアー会社に電話してみた。予約ができるのは2時30分であり、このツアーも12時頃の天候の様子を見て飛ぶかどうか判断するという。ラクストン博物館やバンフのメインストリート正面の公園(写真4-21、4-22)で時間をつぶし、2時過ぎにもう一度電話をして飛べることを確かめ、隣町のCANMOREのヘリポートに向かった。
受付で申込をしたが、係員は3歳の娘は飛べないという。それは困ると言って粘ったら、娘に起こるかもしれないすべてのトラブルは親が責任をとるという条件で、どうにか飛べることになった。ヘリコプターから眺めるカナディアン・ロッキーは地上から眺めるものとはやはり違う(写真4-23)。どちらの方が良いという問題ではなく、ヘリコプターからの景色は普段見慣れたものとは違うということである。同じ山を見ても別の感動があるということである。わずか30分足らずのフライトではあったが、充分に楽しませてくれた。
バンフに戻った後、少し早いかと思ったが予約を取っていたわけではなかったので(予約できるかどうか分からない)、バンフのキャンプ場(TUNNEL MOUNTAIN)に入ることにした。キャンプ場に着くとゲートのところはすでにモーターホームの行列ができていた。私が並び始めたころは大した列ではなかったが、夕方にはかなりの長さの行列となり、入場するのに1時間以上かかったのではないかと思う。
バンフのキャンプ場は雰囲気もよく大規模である(写真4-24)。フックアップキャンプ場と非フックアップキャンプ場が別個に設けられている。フックアップキャンプ場はさらに電源だけのフックアップとフルフックアップサイトがある。フルフックアップサイトは850まで番号が振ってあった。電源だけのフックアップも100サイト程度はあると思う。これだけ大規模なサイトになると、入場手続きだけでも相当時間がかかることになる。フックアップサイトは木立で仕切られている。
このキャンプ場は鹿およびリスと一緒にキャンプすることになる(写真4-25、4-26)。写真4-25の鹿は剥製のように見えるが、本物である。この写真を撮った後、鼻息で脅かされて襲われそうになり、あわてて逃げるという場面があった。野生の動物には必要以上に近寄らない方が安全である。ひょっとしたら気付かなかっただけで、熊も一緒だったかもしれない。
このような大規模なキャンプ場が一杯になることがあるのかと感じてしまうが、パークウェー沿いには「OVERFLOW CAMPING」というサインがあり、そこには設備の何もない広場が準備されている。ここにキャンプ場からあふれたキャンパーが入ってくるのであろうから、一杯になることもあるのであろう。
バンフのキャンプ場に限らないが、カナダのキャンプ場の夜間静粛時間は11:00PM~6:00AMというところが多い。日本では9:00PM~というところが多いと思う。これは高緯度であり、かつサマータイム制をとっているので、夏は午後9時半ころまで明るいこと、モーターホームが多いせいか、音が外部に漏れにくいことが理由であろう。ここで指定されたサイトは2台のモーターホームが後部同士を突き合わせて停める形のサイトであった。片方のモーターホームはうまく接続できるのであるが、私が停めた方はサワホースが短くて、これだけ接続できなかった。このキャンプ場には別にダンプステーションが設けられているので、出発する前に寄ってダンプしていくことにした。
この日は私の?回目の誕生日であり、家族がケーキを買って祝ってくれた。ワイフが私の歳の数だけロウソクを立てると言ってきかない。すべてのロウソクに火をつけたら、ロウソク全体が1本のロウソクのようになり、大きな炎になって危険を感じた。バースデーソングが終わるのも待ち切れず、急いで火を吹き消したが、その後の煙がまた大変なものであり、モーターホーム中がスモーカーとなってしまった。煙検知器の電池を外しておいたのは言うまでもない。歳の数だけロウソクを立てるのは、子供のときで終わりにしなければならない。